2010年05月07日

10人の住む島 no1



 昔々、南の海にぽっかりと浮かぶ、10人の住む島がありました。島の真ん中に山があり、頂上の窪みには雨水が貯まって青い湖になっていました。島の人々は、朝起きるときまって浜辺に出かけ、波に打ち上げられた海草と小魚を拾い、それから水汲みのため山の頂上に向かいます。午後になると森に分け入って、果物や木の実を探すのが日課でした。毎日の食べ物を探すのが精一杯の暮らしは、楽なのもではありませんでした。
サンは山の頂上で3日ぶりに会った西の隣人トムに言いました。
「凪の日は海の獲物はないし、山の収穫も運頼り。それに水汲みは腹が減る。
 なんとかなりませんかトムさん。」
トムは、ひとつ小さなあくびをしてから、こう言いました。
「オイラは凪の日にゃ浜辺に行かないよ。冬は山には入らない。
効率が悪いからなぁ。そんな日は腹が減らぬよう家でジッとしてるのが一番さ。」
「ふーん、そうなんですか。」サンは始めて聞いた話が気になりましたが、カメに汲んだ水をこぼさぬよう、気をつけながら山を降りるうちに忘れてしまいました。
  


Posted by Dr.jij at 12:32Comments(0)10人の住む島

2010年05月08日

10人の住む島 no2



 ある凪の日の朝、サンはいつものとおり浜辺に出ましたが案の定獲物はありません。プラプラと東の小さな入江まで来たところで、小魚が真っ黒な集団になって泳いでいるのを見つけました。海にはこんなにたくさん獲物が泳いでいるのに、オイラは腹をすかして見てるだけ。こいつらが大きな魚に追われて、みんな浜に上がってしまえばなぁ。サンは腹いっぱいになった自分を想像していました。それから自分が大きな魚になって小魚を追っかけている姿を想像してみました。サンの目の前を小魚があわてて逃げて行きます。その時、サンの目がピカリと光りました。大きな魚になってみよう!浜辺のシュロの枝をポキポキと折りクズのツルで腰に巻きつけ、両手に長い流木を持ったかと思ったら、いきなり入り江の入口に向かって走り出し「オーッオーッオオーッ」大きな声で叫びながら海に飛び込むと、今度はバシャバシャと水音を立てながら入り江の奥に突進しました。
  


Posted by Dr.jij at 20:34Comments(0)10人の住む島

2010年05月09日

10人の住む島 no3



 イテテッ!スネの傷に塩水が染みてサンは気が付きました。サンはハリキリ過ぎて酸欠になって浜辺に倒れていたようです。そして目の前の光景に目を見張りました。たくさんの小魚が目の前に打ち上げられてピチピチと跳ねています。 100匹はいるでしょう。「やった」小さな声でつぶやいたあと、今度は大きな声で「やったー!」と叫びました。10匹づつをシッポのところでクズのツルでクルリと縛り、できあがった10の束をカッコよく肩に担ぐと、サンは意気揚々と西の隣人トムの家に向かいました。
「トムさん 魚がいっぱい取れたから差し上げます。どーぞめしあがれ。」
ツルで縛った10匹の小魚を、ポンと置き、入り江での出来事を話しました。
「今日は凪で魚はあきらめていたよ。ありがたい。
 一度に100匹の魚とは、これは効率がいい、驚いた。
 そこに貯め置いたマキがある。御礼に持っていっておくれ。」
サンはありがたくマキを頂戴すると、今度はその隣の家に行きました。
すると今度は魚のお礼にと、めったにありつけないバナナを戴きました。
そして次はその隣の家に・・・結局その日は西回りで島を一周してしまいました。
最後に寄った東の隣人の家では水を分けてくれると言って、サンの家までたっぷりの水を運んでくれました。
  


Posted by Dr.jij at 11:47Comments(0)10人の住む島

2010年05月10日

10人の住む島 no4



そんなわけで、サンはたった1日で3日分の食料と水を手に入れました。
次の日と、その次の日、何もすることがないのでサンは1日中考えていました。
「トムさんの言っていた、効率がいいってことは、こういうことなんだなぁ。」
4日目の朝、またあの入り江で魚を捕まえると、今度は東周りで島を一周しました。そして最後にトムさんの家に寄り、今日1日の収穫を見せながら言いました。
「トムさん 効率がいいってことは すごいですね。こんなことになるんです。」
するとウンウンと頷きながらトムが言いました。
「オイラもこんなにスゴイことになるとは 思わなかったよ。
 どーだい、今度は一番大変な水汲みの効率について考えてくれんかね。」
「なるほど 水汲みは一番の大仕事ですからね。考えてみます。」
次の日と、その次の日、何もすることがないのでサンは1日中考えていました。
  


Posted by Dr.jij at 07:52Comments(0)10人の住む島

2010年05月11日

10人の住む島 no5



4日目の朝、サンは自分の発明した魚採りの方法を東の隣人に教えると、とって返してトムさんのところに向かいました。
「トムさん 水汲みの効率について考えてみました。竹をつないで山から水を引いてみようと思います。手伝って戴けますか?」
トムは手をポンと鳴らして「ヨッシャ」と言うなり身支度を始め「善は急げ」とばかりに、サンと一緒に山へ登って行きました。
 魚採りを覚えた東の隣人は、毎日魚を採っては島を一周し、食べ物だけでなく竹や麻ヒモなど、必要な物を揃えてサンとトムのところに運んできました。
一週間後、山頂の湖の水を、竹筒で里まで引く工事が完成しました。
竹筒の先からチョロチョロと流れ出る水を見ながら、サンが言いました。
「水の道だから、これをスイドーと呼ぶことにします。」
「スイドーだぁ!スイドーだぁ!スイドーだぁ!」
東の隣人がクネクネと踊りながら歌いだしました。気が付くと島の人々がみな集まってニコニコしながら踊りに加わっています。
  


Posted by Dr.jij at 07:51Comments(0)10人の住む島

2010年05月12日

10人の住む島 no6



 その後、スイドーは島の北側にもう1本造られました。島に出来た2本の水道は、秋にはレンガで造った丈夫なものに改良されました。サンの呼びかけで、浜辺にはヤシの木が植えられ、森には春に植えたバナナの苗が育ち収穫の時を迎えていました。
遠くから見ると山裾が黄色く見える程です。
島の人々の暮らしは、とても豊かなものになりました。

スイドーが引けた日には、今でも毎年「スイドー祭り」が開催されています。
島中の人が御馳走を持ち寄って集まり
「スイドーだぁ!スイドーだぁ!スイドーだぁ!」と歌いながら
東の隣人が考えた、あの変なクネクネ踊りを、朝までみんなで踊りまくるのです。
                                                おしまい

富の根源 no4 に続く)
  


Posted by Dr.jij at 08:34Comments(0)10人の住む島